加須周辺では、江戸中後期から青縞(木綿藍染め)が盛んになり、江戸からの買継者も入り市場は盛況をきわめた。その日は朝早くから近郷の婦女が織った布を背負って集まり、帰りには必需品を買うので「買継市」は賑わった。(明治末頃まで)
一方で養蚕は、畑作地帯で横浜への舟運も発達したことから、明治前期から始まっている。明治10年に生糸の検査場(改所)が加須にできて、明治33年には片倉製糸工場が入ってくる。明治中期には養蚕指導員によって技術が高まり、部落単位で集荷場を設けて品質検査をやり価格を定めた。これらにより、農民は米の生産、青縞、養蚕などに追われて休む暇もなかっただろうといわれる。
(「加須市の郷土史」より)
明治期の地図を見ても広い桑園は見当たらないが、「大桑村」という地名が目を引く。
このあたりでは養蚕が行われていて、信仰の記録もある。
●熊野三神社(権現社)/埼玉県加須市北大桑1169
当社の静まる北大桑は葛西用水に接している。地名の起こりは昔この辺りに大きな桑の木が茂り、利根川を上下する船の目印になっていたためという。
当社の歴史は口碑によると、この大地に昔草分けの真中家が平家の落人伝説のある加須の真中屋敷から分地入植したもので、このとき一緒に入った山伏に屋敷を与えて、権現様を祀ったのが当社の始まりである。これから字を大宮と呼ぶようになった。
その後、戦後の耕地整理により水田中心に改まるまで、養蚕の盛んな所として栄え、隣接する杓子木(しゃくしぎ)が河岸として賑わい、繭の仲買が往来し、権現様はお蚕の神様として信仰されてきた。
3月15日は、五穀豊穣を願い 「雹祈祷」(ひょうぎとう)が氏子一同の参列により行なわれる。4月・10月の15日は 「お日待ち」 と呼ばれ、各戸で 「あんびん餅」 を作って祝った。
(「埼玉県蚕糸業史」より)
「浅間大神」(大正15年11月)と「食行身録」の石塔がある。
このころに地域は養蚕で潤っていたのかもしれない。
●富士塚(八坂神社・浅間神社ほか)/埼玉県加須市杓子木(しゃくしぎ)514
「杓子木(しゃくしぎ)が河岸(かし・商業集落)として賑わい、繭の仲買が往来」したという杓子木地区にも富士塚がある。
「浅間神社」(明治12年4月)や「食行霊神」などの石塔が並んでいて、同じ富士講が関係していたのだろう。
ずいぶんと立派な富士塚なので、ここが河岸の賑わいの中心だったのではないかな。
しかし蚕神関連はないので、木花咲耶姫でまとめて祈願されていたのでしょう。