檜原村/檜原村郷土資料館と村史

檜原村出身の年上の友人と話をしていたら、子どものころよく行ったおばさんの家(檜原風穴が近いあたり)は、3階建ての大きな養蚕農家で、おしら様という言葉を聞いたそうです。おしら様が何かは友人にはわからないけれど。
また、おばさんの家に泊まりに行くと、オカイコが桑の葉をはむ音がすごかった、トイレが廊下をぐるっと回った先にあり、夜中にトイレに起きると、廊下を延々と歩いていかないといけないのだけど、たまに蚕室から抜け出したオカイコが廊下にいて、真っ暗でまったく見えないので踏んづけてかわいそうだった、と話してくれました。
たぶん昭和30年台始めごろの話です。その家はもうありません。

それで思い出したので、以前撮った檜原村郷土資料館の養蚕展示を載せておきます。
(大澤)

●檜原村郷土資料館/東京都西多摩郡檜原村三都郷3221


山の中に集落が点在する檜原村ですが、養蚕はたいへん盛んだったようです(戦前の5万分の1地図見ても桑畑マークはひとつもないけど)。
檜原村には明治生まれの祖母の実家があったのですが、行ったこともないし、何も知りませんでした。


ここにはかつてはたくさんあったらしい兜造り(山梨県から伝わったようです)民家の模型があり、いくたびに最低3回くらい動かしてしまいます(断面が見られる)。

 

▼以下、村史より。

●慶応二年の「糸繭商人連名簿」によると、安政開港直後の檜原村の養蚕業は大変活発で、繭商人19名が認可されていたとある。
●明治期に入って檜原村では小規模の製糸工場が少なくとも8か所以上設立され、座繰り製糸が盛んに行われた。
●中里の宮田静応は明治6年に早くも株式会社三和洋行を設立し、製糸工場を作って産業開発に努め、横浜に出て貿易を始めた。
●明治13年ごろから暖房を使った温暖育が普及してきた。
●養蚕が盛んになってきた明治19年ごろから、家屋の作りも唐傘作り(※兜作りとは別?)という大黒柱を中心とした傘のような作りの家も建てられ、2階はイロリの火で暖まるように竹の簀の子天井とし、その上は何階にもなっていてうまく暖気を利用していた。
●檜原村では羽村の下田伊左衛門(※のちに成進社を創立し養蚕界に貢献した)を招き、伊左衛門は村内の養蚕家に大きな刺激を与えた。今までの春蚕種は長野県から供給を受け、信州種がよいと信仰的に信じていた。次は群馬県(高山社)・埼玉県(共進社)であり、蚕種の良否も鑑別できず、当たり違いは天運に任せる状態であった。
●当時夏蚕・秋蚕の蚕種は春蚕の残種を涼しい所に貯蔵しておき、飼育したので、失敗することが多かった。
●人里では蚕種を保存した蚕神様が川向こうの稲村という所に残っている。
●夏蚕は平坦部では農事の都合で行われず、山間部の檜原村と小河内村で行われたに過ぎない。村では飼育技術や蚕種の改良で、明治40年ごろになって年3回蚕種の供給を受けて養蚕を行うようになった。
●成進社(羽村)、高山社、共進社が、自社の技術を熱心に奨励して蚕種の販売に努めた。
●飼育法は、三眠までは密閉した蚕室に置き、火力で空気を環流させた後は、密封をといて解放した。
●大正5年ごろからは桑を上畑に植えるような養蚕に対して熱が入り、大正7年には糸繭商人が17、8人もいた。
●大正8年ごろから暖房用に埋薪法が行われて経費の節約となった。この方法は蚕室の大きな炉に楢薪をびっしり並べ、その隙間にオガクズを詰め、木炭で覆って火を着け自然に炭化燃焼するようにした。温度は調節して使用した。薪のすぐ手に入る檜原村では有利な方法だった。
●昭和16、7年ごろまでは養蚕が行われたが、食糧増産が提唱され始めてから減少してきた。
●戦後はまた養蚕が始められたが、戦前の半分となり、昭和48年からは激減し、昭和50年代になるとまことに少なくなった。


おまけ写真は、今も残る桑の木。ここは、南北秋川が合流した少し先の、檜原村入口の谷間の、秋川左岸で陽当たりがよく、「日向」という小字がついているそうです。この畑の主は対岸の「日影」という小字の集落で生まれ育ち、いつかは日向に行きたいとずっと思っていたと聞きました。

▼檜原村、その他。

・下川乗には蚕影山がある。(『東京府に於けるオシラさま』)※今はない?

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